長く暮らしてLong local life

とっておきの食で

子どもと向き合う

中津市

コポコポコポ・・・。
四季折々の自然が包む山あいで
心を落ち着かせるサイフォンの音色と
子どもたちが駆けまわる声が聞こえる。
有機農業が盛んな地域で見つけた
本物のおいしさに出会う暮らし。
4人の子どもたちと生き生きと暮らす
にぎやかでスロウな日々。

耶馬溪の個性的な奇岩がみせる勇壮な景観。新緑や紅葉など四季折々の姿を見せてくれる。

土のある場所で子育てを

新緑や紅葉など四季折々の自然や、見応えある奇岩や渓谷が魅力の景勝地・中津市耶馬溪町。ここで、体に優しいオーガニックスイーツと、サイフォンで淹れたコーヒーを提供するカフェ『陶cafeしきろ庵』がある。オーナーは陶芸家である末安心太さんと、1男3女の母である真由美さんだ。9年前、子育てをする環境について悩んでいた真由美さんは、長女が4歳を迎える頃に、久留米市から耶馬溪町への移住を決めた。

「子どもたちが自由に駆け回ることができる家で、理想の田舎暮らしが叶った」と話す真由美さん

「久留米で暮らしていたときは、周りに自然が少なくコンクリートばっかり。でも私は子どもには〝もっと土や自然に触れさせたい〟という思いがありました。夫も作陶に向いた場所を探しており、家族で田舎暮らしを検討するようになったんです」
1年ほどかけて移住先を検討。「昔ながらの風景も残っていてとてもいい街がある」と心太さんが一目惚れしたのが、耶馬溪町だったのだ。

現代的な造形のオブジェやアート作品なども手がける心太さんが制作した、さまざまな陶器たち。カフェで購入もできる。

「有機宣言」をした地域で体に優しい料理を

川沿いにある空き家を購入し、家族で3年ほどかけてコツコツとリノベーション。2013年、自宅と陶芸のアトリエ、カフェを兼ねた『陶cafeしきろ庵』が誕生した。
カフェがある場所は耶馬溪町の下郷地区。全国でも稀有な〝有機農業宣言〟を標榜する地域だ。ここで、無農薬の小麦粉に出会った真由美さんは、「耶馬溪の小麦粉を使って、体に優しいお菓子を作ろう」と、オーガニックにこだわった手作りのスイーツを提供。手作りのアイスやフレンチトースト、かき氷などは評判を呼び、県内外から多くのお客が訪れるようになった。

奥八女の抹茶と手作りの黒ごまアイスをトッピングしたかき氷。下郷農協の「耶馬渓牛乳」を煮詰めて作った練乳のシロップ付き。

今では食にこだわる人気店の店主となった真由美さんだが、興味深いのは移住前までオーガニックへの興味が全くなかったということだ。
「昔は、とにかくお金を切りつめようと、安い食材や調味料を使っていましたが、ここに引っ越してから有機の食材の美味しさを知りましたし、子どもの健康を考えて、有機のものにこだわるようになりました」食への感度が高い人が集っている地域だからこそ、知り得た本当の美味しさ。地産地消を改めて実感したことで、食生活はガラリと変わった。

店内にはオーガニックの美味しさに目覚めた末安さんがセレクトした、オーガニック食品の販売もある。

「野菜はもちろん、空気や水も美味しい。子どもたちが土の上で走り回れる環境があることや、四季折々の心動かされる景色が目の前にあるということの贅沢さを、今とても実感しています」
移住して9年。4歳だった長女は中学生になり、公営施設を持つ耶馬渓ならではのスポーツ・水上スキーを始めた。さらに昨年は、4人目となる3女が誕生し、食卓はますますにぎやかになった。明瞭な四季を持つ自然の中で、地域が育んだ美味しいご飯を食べながら、のびのびと育っていく4人の子どもたち。季節が巡るたびに、楽しみは増えていくばかりだ。

真由美さんが趣味のガーデニングを楽しむ広い庭には、子どもたちの遊び場になっている小屋やブランコが。

会話から生まれる安心感

今でこそ移住者に人気の耶馬溪地区。だが、末安さん家族が移住してきた9年前は、まだ周囲に移住者が少なかった。「診療所や保育所、スーパーの場所など、暮らしの情報は下調べをして移住を決めたものの、生活の様子や雰囲気など、実際に暮らしている人の情報を得るのは難しかった」という。そんなときに感じたのが、耶馬溪で暮らす地域の人たちの優しさだった

『陶cafeしきろ庵』の看板メニューにもなっているかき氷を削る心太さん。10種類以上がラインアップしており、ボリュームも満点。

「前に、市街地に住んでいたときは、ご近所との会話も少なかったのですが、耶馬溪では、おじちゃんもおばちゃんも“困ったことはないか” と話しかけてくれるし、いろんなことを教えてくれて助かりました。こんな場所で子育てができるというのはすごくいいですよね」
今まで暮らしてきた「お互いの生活に干渉しない環境」とは一変、耶馬溪に移り住んでからは、地域の方たちと会話を交わし、情報交換をすることが日常になった。
地域のコミュニティの中で、困った時に支えてくれる人がいるという安心感。子育てをしていく上でそれがすごく重要だと実感しているそうだ。

内装や家具なども心太さんが手がけた、手作りの温もりを感じるカフェ。奥には心太さんのギャラリースペースと住居スペースを備えている。

地域で暮らす同じものづくり作家さんのサポートもあり、耶馬溪で順調に作陶やカフェの経営を行えるようになった末安さん夫妻。今では、移住の先輩の話を聞きにこようと、他の地域の移住者たちもカフェに訪れるようになり、『陶cafeしきろ庵』は、地域の方たちとの結びつきや出会いを生む貴重な場となった。「子育てママや地域の人、移住者、いろんな人と出会えるこの場が面白いですね」。今日は誰とどんな話ができるだろう。日々生まれる新たな出会いを楽しみに、真由美さんは今日もコーヒーを落とす。

移住した人Local Person

末安 真由美さん

福岡県出身/Iターン/カフェ経営

福岡県八女市出身。陶芸家の夫と結婚後は久留米市で暮らす。長女を出産後、自然の中で子育てをしたいと2010年に耶馬溪町に移住。古民家を改築し陶器とスイーツが楽しめるカフェ『陶cafeしきろ庵』を2013年にオープン。1男3女と自然の中でにぎやかな暮らしを満喫中。

陶CAFE しきろ庵
器とコーヒーと手作り菓子の店

サイフォンで抽出されたコーヒーと、オーガニックスイーツが自慢のお店。心太さんの陶器も購入可。

大分県中津市耶馬溪町大字金吉862

TEL:090-7927-3161

10:00-17:00 定休日:火・金

中津の暮らしマップLocal Map

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